クラウド契約の法的リスク記事について

法律家も新聞記者も、言葉を商売道具として用いているわけです。

そして、法律家は、法的な用語を、正確に利用することによって、厳密な表現をしようと心がけます。一方、新聞記者も、社会におけるいろいろな問題を言葉を使って幅広く伝えるようにこころがけているかと思います。そうだとすると、法律家が、正確に伝えようとしていることを正確に伝えてくださいね、という話です。

問題となる記事は、いま、注目の電子契約サービスについての話です。日経新聞に、「クラウド上の契約に法的リスク 20年前施行の法が壁に」という記事がでています。

ここで、引用された法律家の方々のコメントが、不正確な概念の利用で、みんな不正確になっています。

第三者が電子署名した契約書が法的に有効なのかは実は曖昧だ。電子契約に詳しい宮内宏弁護士も「立会人型の場合は『本人』の電子署名ではないので、電子署名法の規定では文書は本物として成立したと認められない可能性が高い」と話す。

まず、契約というのは、成立要件と有効要件に分けられます。成立は、当事者と意思の合致があれば、OK。なので、電子署名か、どうかとかは、関係ありません。

では、宮内先生がなんといったか、と推測する(優秀な先生なので、法的に間違ったことをいうはずはありません-断言)と

立会人型の場合は『本人』の電子署名ではないので、電子署名法の規定に基づくと、それだけで文書は真正なものと認められない可能性が高い

と推測します。「それだけで文書は真正なもの」というのは、この記事でいう「立会人型」は、一般に電子メールアドレスの保有者による意思表示がなされるという仕組みになっていて、その保有者同士の意思の合致のドキュメントに電子署名をなすことで、そのドキュメントのインテグリティを維持する仕組みになっています。

送信者Aさんが、送信者Aさんであることは、電子メールアドレスで確認するわけです。昔だと、class4とかいったですけど、いまはなぜか死語(613修正:class1でした。4つあるうちの一番レベルの低いものです)。。

なので、なぜ、それが、4番目か、ということですが、その程度でしか、認証できないわけです。で、送信者Aさんは、技術的に、真正であるということをその程度でしか、実現しようとしていないので、技術の世界だけでは、「真正だとは認められないのです」。

では、「本物として成立したと認められない」(偽宮内先生・談)のでしょうか。文書の真正については、すべての証拠を用いて判断がなされる(自由心証主義です)ので、別に「本物として成立したと認められない」ということはありません。なので、

立会人型の場合は『本人』の電子署名ではないので電子署名法にいう3条における「電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」という規定の適用によることはできないが、それまでの契約に至る経緯、その後の行動、契約の合意内容等の証拠によってその契約が、当事者の意思表示によるものと認められる可能性が高い

というのが、正確な表現になります。似たような言葉を使っていますが、全く別の意味になりますね。

ところで、自由心証主義については、電子署名法の国会審議を見ていてきちんと記載されている質疑を見つけたので、ここで引用しておきます。第147回国会 参議院 法務委員会 第5号 平成12年3月21日ですが、

政府参考人(細川清君) まず、電子署名の実体的効力の問題につきましては、外国では、一定の取引については本人の署名がある文書がなきゃいかぬとかいう規定、英米法等にありますから、そういう国では非常に法的効力が問題になるわけですが、我が国では一般的に諾成主義がとられておりますので、その問題はないわけで、残っている問題はただいま橋本先生が御指摘の証拠に関する問題でございます。


 まず、証拠能力、証拠として取り上げられることができるかどうかという問題ですが、これは民訴法の二百三十一条で書証の規定が、「図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。」ということになっていますから、これは証拠能力があるということになります。


 今度は証明力はどうなるかという問題ですが、これは基本的には裁判官の自由心証でございます。本人が電子署名をしたということがわかれば、文書全体の成立の真正について事実上の推定が働くということになろうかと思っています。


 なお、先ほど申しました通産省、郵政省、法務省三省で立案の準備中の電子署名及び認証業務に関する法律案では、一定の要件を満たす電子署名がされた電磁的記録については、本人が電子署名をしたということが証明されれば、その文書全体が真正に成立したものと推定するという規定を、いわば確認的にそこを置きたいというふうに考えているところでございます。

と書いてあります。電子署名法が必要となった理由(外国で、捺印証書とかもあるし、実行の条件とする法制もあるのでないよりはあったほうがいいでしょう)、証拠能力の無制限、証明力の自由評価、3条電子署名のもつ意味を端的に説明しています。

ちなみに、この関係で、いま一つ、記事には、用語法の間違いがあります。

当事者同士が署名した紙や電子の契約書に比べると証拠能力が劣り、「法律上不利益に働く可能性がある」

これも上でわかったように証明力ですね。証拠能力と証明力を混乱することは、法律家ではありえないので、記者さんが、勝手に、専門用語を書き換えたものと推測されます。

もっとも、この論点については、JILAの意見書とか Sales Forceの意見書とかが、あって、概念の精査もしないで、「推定効」を及ぼせとかとを主張しているので、それらにひきづられているのかと思います。(修正: class1は、class1です)

ちなみに、規制改革推進会議は、こちらですね

いままで、良くわからないことがあって、2条は、

電磁的記録(略)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

となっていて、この概念は、「本人」とか「本人だけが行うことができることとなるものに限る」とかがありません。なので、「高橋郁夫」とか書いて、「送信」というのも、「当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すため」といえるかのように思えます。この点を国会審議で調べたかったのですが、どうも、その限りでは議論されていないようです。

比較法的には、プッシュトーンで送るのも電子署名になるよ、と説明されるので、このような広い概念と2条の概念がどういう関係になるのかは、整理したいところです、といっていたとこ、リモート署名は、電子署名であるという回答発見。これは、別エントリで。