プライバシーパラドックス再論

プライバシーパラドックスについては、私のブログでも過去に論じましたが、きわめて重要な概念であるにも関わらず、きちんと論じたものとはいえませんでした。そこで、きちんと論じたいと思います。

まず、定義になりますが、プライバシーパラドックスとは、「人は、プライバシについてリスクが高いものとして認識しているが、実際に個人情報を広く提供している」と定義することができます。

わが国においては、若干議論されています(例、金 秀那「日本における「プライバシー・パラドックス」の実態とその要因 ―オンラインアンケート調査結果を中心に―」)が、あまり一般的とはいかないでしょう

被験者のプライバシーをどれだけ重要だと思いますかという質問と、コンジョイント調査におけるプライバシーに対する個人の重要度の数値の相関をとってみれば、このパラドックスが存在することを確認することがてきます。

要領のいいまとめとして、Will Oremus 「How Much Is Your Privacy Really Worth? No one knows. And it might be time to stop asking.」があります。

学術的なものとしては、たくさんありますが、Spyros Kokolakis”Privacy attitudes and privacy behaviour: A review of current research on the privacy  paradox phenomenon ”があります。これは、53の文献について調査をなしているので、2017年までの議論をフォローできそうです。

具体的な状況についてのまとめの記事は、Kim Hart”The privacy paradox”になります。

2010年にAllesandro Acuisiti先生にインタビューしたのですが、先生は、このようなプライバシーに関するパラドックスとして、プライバシーパラドックス以外に、

コントロールパラドックス

 人間は、望ましくない経験をした際に、その経験をコントロールしたいと思うことがある一方で、それを常に新しい状況にしておくということは、避けるのであり、また、そのコントロールのための技術があっても利用しないということです。

責任パラドックス

 人は、オンラインにおけるデータを保護するのは、自分たちの責任であると信じているが、その一方で、人は、データを自分が保護することができるとは信じていないということです。

意識 (Awareness)パラドックス

 これは、人は、データ保護に対してより意識したいと考えているが、このような意識は、規制の枠組みに対する態度に影響を与えるものではないし、また、eサービスをしようという意図に影響を与えないということである。

などのパラドックスがあるということを指摘されました。

また、Acquisti先生は電子サービスの受容におけるプライバシの影響の調査については、

  • 消費者は、心理学的理由から、プライバシについての価値を理解することはできないこと
  • その一方で、プライバシについての市場価格は存在すること
  • プライバシを処理する側における利益の問題があること
  • 取引コストの問題があること

の4つが重要であるということを話していました。

コンタクトトレーシングのナッジでも分析したように、利用者は、プライバシーの価値を理解できず、また、それも変動するので、それをどう認識して枠組を作っていくか、という難問が存在するわけです。その価値を影響を与える要素は、ここで指摘されているということがいえます。

また、技術が重要であり、その影響を考える必要があり、また、プライバシの価格については、市場における競争状況およびプライバシポリシの目的が影響を与えうるということがいえるということでした。