「新型コロナ対策で、あなたはデータをどこまで提供できる?」と聞いてはいけない理由

「新型コロナ対策で、あなたはデータをどこまで提供できる?」という日経ビジネスのサイトでのアンケートがあります。

ある意味で、学術的なものとはまったく違うアンケートなので目くじらを立てることも全くないわけですが、もし、リソースを使うのであれば、この問題(コロナ感染者の濃厚接触者のトレースとプライバシの相剋)の本質に迫ることのアンケートを設計することができます。

まず、プライバシを調査する場合には、学問的には、プライバシーパラドックス(ブログでのまとめはこちら)に注意しなければならないというのが私の立場です。

プライバシーパラドックスというのは、「人は、プライバシについてリスクが高いものとして認識しているが、実際の行動では、個人情報を広く提供している」というものです。要は、プライバシーが重要だ、重要だといっている割りには、実際の行動では、プライバシーに配慮をしない行動をとるということです。

なので、プライバシーについて人間がどの程度、提供するのか、というのは、それ自体をいわば、単品で聞いては実際にどれだけ重要とかんがえているのかというのは、わからないということになります。心理学におけるいわゆる質問紙法というのは、プライバシーに関する実験としては、ほとんど有意義な結果をもたらさないということになります。

ここで、私の会社では、実際に、コンジョイント調査をすることによって、プライバシーの選好と他の社会的な価値とのバランスについて、アンケートの被験者が、どのような認知をしているか、というのを実験することができるというのを提案してきました。このコロナウイルスにおける濃厚接触者追跡アプリ(PP-PTアプリ-Privacy preserving Proximity  Tracing アプリ-と個人的には呼んでいます)をめぐる利用者の認知においても、このような実験がきわめて有意義であると考えています。

ここで、このアプリを受容してくれるか、ということに対して、3つの項目について、それぞれ3つの水準を考えてみましょう。

3つの項目としては、プライバシー、行動の自由の程度、日々の感染者数を考えることができます。

プライバシーについては、

  • 1)なんら提供せず
  • 2)接触情報のみローカルに保管(感染時のみアップロード)
  • 3)接触情報+GPS情報

を各水準とします。

行動の自由の程度については、

  • 1)完全自由
  • 2)断三密、厳格な自粛要請
  • 3)罰則付きの外出禁止

日々の感染者数

  • 1)毎日全国で、10名程度減少
  • 2)同250名程度増加
  • 3)同500名程度増加

をそれぞれの水準とします。

これらをくみあわせるカードは、以下のようになります。

 

これらのカードを好きな順番に並べてくださいという実験をやってみるとします。このように各要素のトレードオフを考えてみて、初めて、有意義なアンケートといわれると思われます。(学問的には、直交法によって実験の枚数を減らすことができますというのに従っています)

この調査でわかることですが、実は、国民は、感染者数を抑えられて、行動の自由をえられるのであれば、GPS情報をも提供していいと考えているのではないか、それとも違うのか、という論点に対する回答がえられると思います。

あとは、応用で、例えば、プライバシーをキーにして、ポイントがたまりますとか、活動範囲が広がりますとか、いろいろなアンケートと組み合わせることができます。そして、国民は、活動の自由のためであれば、どの程度、プライバシーの制約を我慢してもいいと考えているとか、ここでも、クラスターに分かれているとかもわかりそうな気がします。

ポイントは、プライバシーをめぐる政策でも、エビデンスをもとに決めていく時代になってきているのだという認識だろうと思います。