クマムシの月への持ち込みと法的問題

イスラエルの宇宙探索ミッションの無人月面探査機ベレシートが月面着陸を試みて、月に衝突したが、乗せられていたクマムシ(tardigrades)が、月で生息している可能性がある、ということについての記事がでています。 勝手にベレシート事件ということにします。

民間宇宙団体(スペースIL)のミッションが、月面着陸に失敗した際(4月11日)に、クマムシが月で生息している可能性があるということだそうです。

そして、このような生物の他の衛星への持ち込みに法的な問題はないのか、とうことについての記事がでています

また、英語の記事ですと、「The curious case of the transgressing tardigrades   (part 1)」も参考になります。

まずは、基本的な知識になります。宇宙条約9条は、

条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用において、協力及び相互援助の原則に従うものとし、かつ、条約の他のすべての当事国の対応する利益に妥当な考慮を払って、月その他の天体を含む宇宙空間におけるすべての活動を行うものとする。条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染、及び地球外物質の導入から生ずる地球環境の悪化を避けるように月その他の天体を含む宇宙空間の研究及び探査を実施、かつ、必要な場合には、このための適当な措置を執るものとする。(略)

と定めています。

「宇宙ビジネスのための宇宙法入門」によると「地球から意識的または不注意で持ち出す生命体による宇宙空間の汚染への対処は、宇宙の探査利用の黎明期から宇宙機関や国際科学界の重大な関心事であった」ということです(62頁)。

1956年には、国際宇宙航行連盟(International Astronautical Federation (IAF))は、ローマでの会議で、国際協調が重要であるという声明を出しています。

1958年に国際科学連合評議会(ICSU)により、地球外探査による特別委員会(CETEX)が設立されました。委員会が提案した基準は、1958年10月にICSUにより採択されました。 ICSUは、国際的な委員会である宇宙空間研究委員会(COSPAR)に移管されることが推奨され、ICSU小委員会によって発行されたレポートは、惑星保護のための最初の行動規範を説明し、新たに設立された宇宙空間研究委員会(COSPAR)が惑星保護の問題についての責任を負うることを推奨しました。

それ以来、COSPARは「惑星検疫」および後に「惑星保護」という用語でこのような問題を議論するための国際フォーラムを提供し、惑星間生物および生物から保護するための国際標準として関連する実装要件を伴うCOSPAR惑星保護ポリシーを策定しました1967年以降、その地域での国連宇宙条約第IX条の遵守のガイドとして使用されています。
現在の惑星保護ポリシーは、こちらになります。月へのミッションは、カテゴリー2になって、報告の公開が必要とされます。

でもって、今一つ検討しておくべき規定は、月の環境保護の規定です。月協定がそれに該当します。日本語はこちらです。

第七条
1 締約国は、月の探査及び利用を行う上で、月の環境の悪化をもたらすことによる又は環境外物質の持ち込みによる月の有害な汚染による又はその他の方法によるを問わず月の環境の既存の均衡の破壊を防止する措置をとるものとする。締約国はまた、地球外物質の持ち込みその他の方法による地球の環境への有害な影響を防止する措置をとるものとする。

(略)

基本的な枠組みを把握したところで、このクマムシ事件へのあてはめです。

まずは、このクマムシは、このミッションの担当だった、アーチ・ミッション財団の担当者(Nova Spivak)が、スペースIL社さえへもいわなかった、いわば、密航だったということです。

米国は打ち上げ国であり、ミッションを承認した国家でした。 ミッションはアメリカの会社であるSpaceXロケットで打ち上げられ、FAAは打ち上げをレビューしました。 ロケットの打ち上げ、ならびに飛行中および軌道上の活動については、米国が規制当局でした。

打ち上げのための米国政府のペイロードは二次ペイロードであり、S5という名前のGEOに向かう宇宙状況認識(SSA)宇宙船でした。

現在まで、それは国連に登録されていません。 この立ち上げへのこのような関与とパートナーシップは、米国の土壌から、米国の規制当局の承認を得て、このミッションが米国の国家活動であり、米国の国際的な責任であることを示しています。ベレシートミッションの国際的な責任は米国にあり、これらの活動は米国の国家責任のおよぶ活動です。

では、他の国は、どうでしょうか。
まず、一時的なペイロードは、インドネシアテレコムの衛星でした。ベレシートについていえば、イスラエルの会社であり、イスラエル・エアロスペース産業が建造し、イスラエルの非営利組織(スペースIL)が、運営者でした。その結果、アメリカの国家活動であると同時に、イスラエルの国家活動でもあると考えられています。

この結果、米国とイスラエルが国家として、このクマムシ事件についての責任を負うことになります。

すなわち、

米国およびイスラエルは、宇宙条約9条の有害な汚染の禁止の不遵守や、 他の国家の対応する利益に適切な配慮をなすべき義務の不遵守にたいして国際的に対応しうるものとなる

ということになります。

市場初の「宇宙犯罪」!?と国際宇宙基地協力協定

「史上初の「宇宙犯罪」!? NASA飛行士が口座不正アクセスか」という記事がでています。

不正アクセスなので、piyokangoさんのまとめもでています。

BBCは、「宇宙で法律はどう適用される?」として、「ISSには現在、アメリカとカナダ、日本、ロシア、そして複数の欧州国が関わっている。国際宇宙法では、ISSに属している人や物に対しては、それぞれの国の法律が適用されることになっている。」とかいています。

でもって、このあたりの詰めが甘いなあということで、「「月で生まれた赤ちゃん」はどこの国の出身?など宇宙に関する世界の法律まとめ」という記事をもう一度読んでみました。

「国際宇宙ステーションを使用する国々が合意してるISSのルール「国際宇宙基地協力協定」にあります。」ということなので、読んでみましょう。協定は、これです。

関連する規定は、同協定22条です。

第22条 刑事裁判権宇宙におけるこの国際協力の独特の及び先例のない性格を考慮し、

1 カナダ、欧州参加国、日本国、ロシア及び合衆国は、いずれかの飛行要素上の人員であって自国民である者について刑事裁判権を行使することができる。

2 自国民が容疑者である参加国は、軌道上の違法な行為であって、(a)他の参加国の国民の生命若しくは安全に影響を及ぼすもの又は(b)他の参加国の飛行要素上で発生し若しくは当該飛行要素に損害を及ぼすものに係る事件において、影響を受けた参加国の要請により、当該影響を受けた参加国と訴追に対してそれぞれの国が有する関心について協議を行う。この協議の後、影響を受けた参加国は、この協議の終了の日から90日以内に又は相互に合意されたその他の期間内に次のいずれかの条件が満たされる場合に限り、この事件の容疑者について刑事裁判権を行使することができる。(1) 自国民が容疑者である参加国が当該刑事裁判権の行使に同意すること。 (2) 自国民が容疑者である参加国が訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託するとの保証を与えないこと。

となっています。

1項は、属人主義ということでしょうか?

2項は、属地的に影響が会った場合に、協議を経た上での刑事裁判権ですね。

アメリカだと、無権限アクセスについては、連邦の1030条での処罰になります。ちょっとした解説だと、私の報告書をどうぞ。でもって、連邦の保護されたコンピュータにたいしての域外からのアクセスに対して犯罪が成立したような気がします(いろいろと議論があった気がします)。

実体法が適用されても、刑事裁判権の適用は、どうなのか?ということで、上の協定の規定が意味がでてくるわけです。

すると、日本の人が、アメリカにISSから、不正アクセスをしたら、どうなるの?ということになりますね。アメリカも、2項で、協議を求めて、その上で、起訴するとかなりそうです。わが国の不正アクセス禁止法も、適用されて、その場合には、1項でしょうね。

高まる「宇宙依存」、軍事衛星へのサイバー攻撃に英RIIAが警鐘

「高まる「宇宙依存」、軍事衛星へのサイバー攻撃に英RIIAが警鐘」という記事が、MIT technology Reviewででています

記事としては、チャタムハウスの「Cybersecurity of NATO’s Space-based Strategic Assets」という報告書の要約です。

チャタムハウスとしては、ファイナルフロンティア報告書が2016年にでているのですが、今回は、NATOの戦略に集中して論じているということかと思います。

量子通信衛星の装備などの話もでてきますが、それ以外については、ファイナルフロンティア報告書でふれられた認識を、進めたものという感じのようです。

サマリーは、こんな感じです。

  • すべての衛星はソフトウェア、ハードウェアおよび他のデジタルコンポーネントを含むサイバー技術に依存しています。衛星の制御システムや利用可能な帯域幅に対する脅威は、国の重要な資産にとって直接的な課題となります。
  • NATOの任務と活動は、空、陸、サイバー、海事の領域で行われています。宇宙スベースのアーキテクチャは、これらの各重大な点で依存することによって、任務の保証に影響を与える過度の新しいサイバーリスクをもたらしました。すべての分野で保護を達成するためには、緩和策および軍事用宇宙システムの回復力への投資が重要です。
  • 現代のほとんどすべての軍事作戦は宇宙ベースの資産に依存しています。 2003年のアメリカ主導のイラク侵攻中、68%のアメリカ軍の弾薬が宇宙ベースの手段(レーザー、赤外線、衛星誘導の弾薬を含む)を利用して誘導された。第一次湾岸戦争では、1990 – 91年の10%から急上昇した。 2001年に米国がアフガニスタンで使用した武器の60%が精密誘導弾であり、その多くは宇宙ベースの資産によって提供された情報を使用して目標を達成するための自分の位置を修正する能力を持っていました。
    •NATOは衛星を所有していません。衛星通信のアンカーステーションや端末など、いくつかの地上要素を所有および運営しています。衛星偵察予告システムを介して提供される宇宙天気予報や衛星の機内報告などの製品やサービスへのアクセスを要求しますが、衛星に直接アクセスすることはできません。アクセスを許可するかどうかは、個々のNATO加盟国によって異なります。
    •サイバー脆弱性は戦略的システムのパフォーマンスに対する信頼を低下させます。その結果、情報と分析における不確実性を高まることとなり、それは、抑止力と戦略的安定性の信頼性に影響を与え続けています。技術に対する信頼の喪失は、悪意のある攻撃の原因(帰属)、危機的な意思決定における戦略的な計算の決定にも影響を及ぼし、誤解の危険性を高める可能性があります。

Pr.Setsuko Aoki as Chair person of Legal Subcommittee of the Committee on the Peaceful Uses of Outer Space

青木節子先生が、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)法律小委員会の議長になるということだそうです。

外務省の報道発表です。

あと、代表団のステートメントもおもしろいです。

青木先生が、“Space Legislation in Japan” とかのプレゼンをするみたいですね。ぜひともプレゼンを公開していただきたいところです。

Legal issues of India’s Anti-Satellite Missile Test( NASA、衛星破壊テストで宇宙ゴミを大量に撒き散らしたインドにブチ切れ)

「NASA、衛星破壊テストで宇宙ゴミを大量に撒き散らしたインドにブチ切れ」という記事がでています。インドが、迎撃ミサイルを人工衛星にむけて発射して、それを破壊することに成功し、宇宙の先進国になったという出来事(これについての記事はこちら)に対して、おかんむり、ということです。

ケスラー効果によって宇宙ゴミが雪崩状態になって、大変な問題を引き起こす可能性があるわけです。ケスラー効果については、こちら

でもって、宇宙ゴミをまきちらかした、インドの行為が法的にどのように評価されるのか、というのが問題になるわけです。

参考なる論考は、こちらかな( “Space debris: The legal issues“)。
記事的には、法的問題があるよとするものとして、India destroys its own satellite with a test missile, still says space is for peaceがあるけど、具体的な条文にはふれてないです。

まずは、宇宙ゴミの定義から。

宇宙ゴミについては、「機能していないすべての人工物体(その破片および構成要素を含む)で、宇宙空間にあるか、または、大気圏内に再突入するものをいう」と定義されています(小塚・佐藤編著「宇宙ビジネスのための宇宙法入門 第2版」 58頁)

まずは、1967年宇宙条約から。(宇宙条約の翻訳はこちら)
同条約9条は、
第九条
条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用において、協力及び相互援助の原則に従うものとし、かつ、条約の他のすべての当事国の対応する利益に妥当な考慮を払つて、月その他の天体を含む宇宙空間におけるすベての活動を行なうものとする。(略)
となっていて、この条文が、「締約国が宇宙ゴミの作成を避け、減少させ、さらには除去することを義務付けるために使用され、ゴミからの危険を最小限に抑えてすべての国が宇宙の探査と利用に参加できるようにする」とする解釈の根拠にされるようです。

また、国際協議のプロセスもあります。
「条約の当事国は、他の当事国が計画した月その他の天体を含む宇宙空間における活動又は実験が月その他の天体を含む宇宙空間の平和的な探査及び利用における活動に潜在的に有害な干渉を及ぼすおそれがあると信ずる理由があるときは、その活動又は実験に関する協議を要請することができる。 」
という定めもあります。
では、インドの防衛ミサイルによる人工衛星の破壊が、「月その他の天体を含む宇宙空間における活動又は実験」といえるのか、という解釈問題がおきます。これは、通常の文言の解釈からいうと、否定的に捉えられそうな感じがします。

あと、7条との関係も考えないといけません。
7条は
条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間に物体を発射し若しくは発射させる場合又はその領域若しくは施設から物体が発射される場合には、その物体又はその構成部分が地球上、大気空間又は月その他の天体を含む宇宙空間において条約の他の当事国又はその自然人若しくは法人に与える損害について国際的に責任を有する。
ということになります。

インドが、実験によってまき散らかした宇宙ゴミが、実際にいろいろな損害を惹起したとすれば、損害賠償の問題がおきるのか、という問題があります。迎撃ミサイルの発射が、「宇宙空間に物体を発射」ということなるのでしょうか?

仮に、損害賠償の事件になったとしたら、研究とか実験の抗弁的なものはあるのか、おもしろそうです。

Twiteerで、ちょっと国際法の先生まわりにきいてから、きちんと分析しようかと思います。

続・宇宙-サイバーセキュリティ法の最後のフロンティア その8

 でもって、以下のようなTTXを作ってみました。TTXというのは、机上演習のことですが、単なる説明問題というほうが正確ですね。

A国においては、国内に宗教の教義の独自解釈に基づくテロリストおよびテロ行為が跋扈していた。また、政治的には、A国は、隣国Bと国境であるC地域をめぐって、常に領有権をめぐる紛争が存在している(いままでに、軍事紛争も経験している)。おりしも、このテロリストの集団I(構成員は、A国国民であるが、民族的には、隣国であるB国と同一)が、A国の打ち上げたGPS衛星に対して、その地上システムからのアップリンクを操作することによって、GPS衛星の信号を変更した。

(a) その結果、A国内の通信を変更することに成功した。そのために、A国内の経済は、壊滅的な打撃を受けた。

(b)従来から、B国と敵対関係にあった超大国Uの通信を攪乱することに成功して、超大国Uの株式市場を大混乱に陥れることになった。

 
(1)テロリストの集団Iを隣国Bが支援していた場合はどうか
(2)テロリスト集団Iに対して、武力による制圧行為をとることはできるのか
(3)このようなGPSの乗っ取りを防止するためにA国は、そもそも、どのような法的整備をしなければならないといえるのか。

このような質問に対して、どのような回答ができるでしょうか。

まず、宇宙条約7条および宇宙損害責任条約が定める損害賠償責任の守備範囲はどうか? という問題があります。
A国が打ち上げているので、宇宙損害責任条約「打上げ国は、自国の宇宙物体が、地表において引き起こした損害又は飛行中の航空機に与えた損害の賠償につき無過失責任を負う。」という規定が適用されるのかという問題です。
打ち上げの有体物から生じる物としての安全面に関する国際的な責任を規定したものということになるので、この規定によってA国がU国の市場に生じた責任をとらなければならないということはありません。

(1)隣国Bがテロリストの集団Iを支援していた場合、どうか、という問題があります。前のエントリでふれた効果的なコントロールがあった場合については、燐国Bの国家責任を生じさせる行為になります。

A国の経済が、壊滅的な打撃を受ければ、場合によっては、武力攻撃のレベルをこえるかもしれません。その場合には、国連憲章のパラダイムに則って、安全保障理事会によって対応が図られますし、それまで武力による防衛も正当化されるということになります。
武力攻撃のレベルを超えなければ、違法な介入行為(interference)ということになるでしょう。A国は、B国の国際的違法行為として、種々の対抗措置をとることができます。

(2)テロリストに対する制圧行為については、安保理の決議によって、加盟国が、軍事的措置を行うことも国際法的には、許容されることになります(平和に対する脅威としての認定)。この類型だと、リビア、スーダン、アフガニスタンの実行が参考になります。
また、安保理の決議が得られない場合においても、国の同意がある場合には、軍事的措置もしくはサイバー作戦等の強制的な手法による対応も可能になります。イラク政府は2014年9月20日の安保理議長宛の所管において、米国に対して、明示的同意に基づいてISILの拠点および軍事要塞を攻撃する国際的努力を主導することを要請しており、米国は、かかる明示的な同意に基づいて軍事的措置を行っており、これと同様の法理に基づくことになります。

(3)国内法の整備としては、「ロケット安全基準」「施設安全基準」をはじめとした衛星システムの安全基準が、サイバーセキュリティからみても堅固であることが必要とされます。その意味で、宇宙がサイバーセキュリティの最後のフロンティアであるといわれることなります。

続・宇宙-サイバーセキュリティ法の最後のフロンティア その7

講演では、衛星システムに対する脅威が、どのように技術的に惹起されるかとかもご紹介しましたが、それらは、まさにチャタムハウス報告書やそれを紹介した、このブログのエントリで、ふれたところになるので省略します。

講演の最後のテーマとしては、宇宙における衛星システムの安全とサイバーセキュリティの法を考えていくことになります。

まず、この点を考えるときに、宇宙法のいくつかの原則のうちに、重要なことにふれておくことは重要なことなります。

ここで、ふれておくべき原則として「責任の一元集中方式(宇宙条約6条)」と「平和利用原則(宇宙条約4条)」をあげておきます。

宇宙条約6条は、「条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間における自国の活動について、それが政府機関によつて行なわれるか非政府団体によつて行なわれるかを問わず、国際的責任を有し、自国の活動がこの条約の規定に従つて行なわれることを確保する国際的責任を有する。(略)」と述べており、これは、責任の一元集中方式と呼ばれています。

民間の行為に対して、国家が責任を負うのは、いつなのか、ということについては、このブログの「属性について」で説明しているところです。国家の効果的なコントロールが及んでいることが通常は必要なのですが、宇宙空間における自国の活動については、国が責任主体として表に出てくるということになります。効果的なコントロールがない場合に、国家が民間の行為について責任をおう場合には、デューデリジェンスの義務をおう場合であって、それを欠いた場合とされます。このような法理との関係については、今後、調べてみたいと思っています。

 宇宙条約4条は、「月その他の天体は、もつぱら平和的目的のために、条約のすべての当事国によつて利用されるものとする。天体上においては、軍事基地、軍事施設及び防備施設の設置、あらゆる型の兵器の実験並びに軍事演習の実施は、禁止する。」と定めていて、平和利用原則と呼ばれています。1960年代には、この原則は、非軍事を意味するのか、非侵略(国連憲章のパラダイムに準拠すること)を意味するのか、という争いがありました。現在では、非侵略を意味するということで決着がついているということになります。

ここのケーススタディにおいて、民間が、通信システムを混乱させることができるということをみてきました。

これをみるときに、テロリストが衛星システムをハッキングして、経済を混乱に陥れるというTTXが作れそうに思えます。

次のエントリで、TTXをみていくことにしましょう。

 

続・宇宙-サイバーセキュリティ法の最後のフロンティア その6

いままでみた事案を、整理してみたいと思います。これらを整理する場合に、二つの軸を設定することにします。一つは、情報セキュリティの視点で、いま一つは、主権侵害等の視点です。ここで、主権侵害等といっていますが、人の生命・身体・財産の損壊と国の中心的な機能の喪失をひとことでいっています。(あまり一般的な言葉ではないですし、このエントリでの一時的なな使い方です)

さらに、攻撃者は、誰なのか(アトリビューション)という視点が入ってきます。これが国であるのか、その実効的なコントロールがあるのか、それとも民間であるのか、ということです。

被害の二つの軸にアトリビューションの色分けを加えた図は、以下のようになります。

時系列と合わせると、単なる情報セキュリティの論点から主権侵害等の論点に移行しつつある様子がわかるといえるでしょう。

続・宇宙-サイバーセキュリティ法の最後のフロンティア その5

2010年代後半

各国の衛星に対する工作なのか故障なのかを疑わせる事件が増加している。

2016年 IRNSS 1A の原子時計故障

この事件は、2016年7月にIRNSS 1Aのルビジウム原子時計の故障が発生したという事件です。(ちなみに、現在は、秒は、「セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍の継続時間である」と定義されています)

IRNSS-1(Indian Regional Navigation Satellite System (IRNSS))は、インド地域航法衛星システムの最初の世代の測位衛星であり、静止軌道に配置される7機構成の衛星です。インド国民にGPSのサービスを提供し軍に監視機能を提供するために用いられます。

しかしながら、この代替機であるIRNSS 1Hも、発射装置の故障により失敗しています(2017年8月)。なお、IRNSS 1lが、2018年4月に打ち上げに成功しています。

2017年 GALILEO 原子時計の故障

上記のIRNSS 1Aの原子時計故障の事件とも関連するが、2016年末より、原子時計の故障によるデータの異常が発生したことが判明しました。

このデータの異常の原因についての調査がおこなわれ、その調査の結果、Galileo(ヨーロッパのGPS代替システム)の原子時計が故障していたことが判明しました。具体的には、ルビジウム時計がコンポーネントとして故障しており、短絡を起こしていたとされました。

Galileoシステムというのは、23222キロメートルの軌道上で、完全稼動時には、30の衛星で運営されます。正確さは、専門には1メートル、一般には5メートルといわれます。

2017年 GPS妨害事件

この事件は、2017年6月22日に黒海の船舶に対して、GPSなりすまし攻撃がおこなわれて、黒海を航行中の船舶が自分の位置を誤表示したという事例です。(記事は、”Mass GPS Spoofing Attack in Black Sea?”)

ロシアのNovorossiysk付近であるにもかかわらず、25海里離れた場所を表示していたというのが実際の事案です。

米国コーストガードが調査した結果、コーストガードの場においては、GPS信号は、正確であって、ソフトウエアのアップデートについて確認するようにという連絡がなされました。ロシアが、このなりすまし攻撃の背景にいるのではないかと分析されています。

 

続・宇宙-サイバーセキュリティ法の最後のフロンティア その4

2010年代前半

2014年 ウクライナによるロシア・テレビ衛星軌道妨害
この事件は、2014年に、ロシアが、ウクライナが、ロシアのテレビ衛星の放送をジャミングにより妨害していると主張したという事件です この記事(Russia Today (2014), ‘Attempt to jam Russian satellites carried out from Western Ukraine’, 14 March 2014)は、こちらです。

また、ロシアのハッカーグループは、Turlaを用いて、ウクライナの情報に対して、スパイ行為をなしたとされています (以下でふれます)。

2014年 米国の気象衛星システムに対するサイバー攻撃
この事件は、中国のハッカーグループが、2014年10月に、米国の気象衛星システムに対するサイバー攻撃を行い、障害対応、航空、船舶などに関する貴重なデータを流出させたという事件です

国家気象センターの発表によると、10月20日には、少なくても、気象衛星のいくつかのデータが失われ、気象予報の正確性に対する問題が発生するとのことでした 。
もともとは、9月には、発生していたところ、上記10月20日までは、気がつきませんでした。攻撃者が中国ハッカーであることは、政治家に対して、NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)が認めています。

2015年 Turlaの衛星悪用活動
これは、サイバースパイグループであるTurlaが、「Epic」マルウェアを用いて、バックドアを仕掛けて標的のネットワークに侵入し、内部情報を収集し他の地に、最終的には、広範な衛星通信のメカニズムを利用して、自らの活動の痕跡を隠蔽していたという事件です。 (Russian group accused of hacking satellites” )。「Kaspersky Lab、サイバースパイグループ「Turla」の衛星を悪用した活動を解明」です。

2010年代と衛星システムというと、
ISEE-3/ ICEの復活
これは、任務が完了し、通信が打ち切られていたNASAの宇宙探査機「ISEE-3」に対して、クラウドファンディングで資金を集めた宇宙愛好家グループ(ISEE-3 Reboot Project)が交信に成功したという事件があります
ISEE-3は、1978年に打ち上げられた衛星で、1980年代に太陽風の研究等に使われました。16年ぶりに地球に接近したのを契機に、2014年6月までに衛星を制御し、軌道制御を行い、L1点(宇宙ステーションの場所に最適なラグランジュ点)に戻そうと試みられました。そのまさに数奇な運命は、こちらの動画からどうぞ(迷衛星の軌跡 #09 ISEE-3/ICE )。

この試み自体は、失敗に終わりましたが、ISEE-3は、惑星間空間観測という新たなミッションに向かいました。ある、意味、衛星システムのコントロールは、国家でなくても、通信技術を有する民間の力があれば、十分であるということをしめしているといえるでしょう。